2022/7/9 許す

日記じゃなくただの記録。

 

 

泥酔状態から復活して7:00頃に起きることができた。朝から風呂を沸かして浸かった。しっかり体を綺麗にしてからコンタクトを貰いに行った。受付の女性が綺麗な方だったから「コンタクトを貰いに来ました」の一言に何度も噛んでしまった。恥ずかしい思いをした。相変わらず綺麗な女性の前で頭を掻いて照れてしまう25歳独身、いつかはスマートにデートに誘えるようになりたい。まあ無理か。

 

 

家に帰ってオートミールを食べてから車で数分。今日は初めてカウンセリングを受けた。非営利団体がやっている引きこもりや不登校、その他の発達障害の方が集える"居場所"を提供する場所だった。俺は前述のどれにも当たらない。しかし一度カウンセリングを受けたかったので試しに電話をしてみたら、あっさりと予約がとれた。驚いたのが代表が引きこもりを経験しているマレーシア人の女性であったこと。確かにメールで日本語の助詞がおかしいところがあった。

 

 

"居場所"と呼ばれるように、そこは日当たりのいいワンルームでキッチンとテーブルと椅子があって、本やギターやボードゲームやCDがたくさんあった。高校生の頃に軽音楽部で屯した"佐倉市ヤングプラザ"に似た雰囲気だった。仕事をしていない人は100円、仕事をしている人は500円で居られるらしい。

 

 

俺と男性スタッフ一人とマレーシア人の代表の三人でカウンセリングが始まった。電話で粗方は話してしまったので、すぐに本題に入ったが流石に目の前の人に話すとなるととても緊張した。昔のトラウマやそれについての考え、今自分が考えていることや、悩み、そして抱えている厄介な問題について話した。代表に質問されながら話したが、彼女が笑って聞いてくれたのでこっちも安心して話せた。ここまで話せたのは黒金さんとライブ後に二人で歩いた時と2回目だった。

 

 

一通り話した。代表が『ヒロキはすごく真面目だね』と外国人特有のイントネーションで言った。「いえ、俺は真面目なんじゃなくて、出来るだけ周りに真面目だと思われたかったり、期待には応えたいと思っているだけなんです」と返した。

『でも、その結果が君の仕事の信頼や音楽に繋がっているんじゃないの?君の周りの人はきっとそう思っているよ』

「そうなんですかね、俺はあまり自信が無いですし……結局自分のことしか考えていなくて、すごく卑怯なことをしているんじゃ無いかって思うんですよね」

『そうだろうね。ヒロキはきっとそうだと思う。』

代表が笑う。

『電話で話を聞いた時から思ってたけどヒロキはすごく勿体ないよ』

勿体無い。『ヒロキはすごくかっこいいのにヒロキがヒロキ自身を許していないんだよ』

許す。「許す、なんて簡単にできないですよね」

黙って聞いていた男性のスタッフが口を開いた。

『俺もずっと許すことは出来なくて、家帰ってから失敗したって悩む毎日だけど、少しずつ対処法はわかってくるはずだよ。現にヒロキさんは少しずつトラウマに向き合っているよね』

確かに向き合っている。

『ヒロキは真面目なのに真面目であることを認めていないし、君は無罪なのに君自身を許していないんだよ。だから辛いんじゃないかな。』

 

 

『トラウマは消えないし、傷跡は簡単に塞がらない。でもヒロキはヒロキ自身を時間をかけて許していけばいいよ。』

代表は付け加えた。

『ヒロキはきっと時間がかかるだろうけど。』

 

 

カウンセリングが終わって他の人が"居場所"にやってきた。絵が好きな不登校の高校生、精神科で3ヶ月入院していた女性、同じような"居場所"を作るために取材に来た隣町の人、娘が急に大学に行けなくなってしまったお母さん。たくさんの事情があって、お互いその全てを理解できないけど、羽を休めにきたことは変わらないのだろう。傷跡は塞がらないけど痛みは和らぐ。良い"居場所"だった。精神科に入院していた女の子が「私は最近ドラムを始めたんです、こんな自分でも表現している時はものすごく自分らしくいられるんです」と言っていた。お茶とさくらんぼをご馳走になって家に帰った。長居してしまった。

 

 

家で味噌汁を飲みながら考える。どうしたら自分を許せるのだろう。代表の分析は隙がなかった。自分らしくいる、ってどうすれば良いんだろう。お昼に話した女の子の顔を思い出す。一番許したかったのは自分だったのだろうか。俺はどうしてここにいて、本当はどうしたいのだろう。洗い物も風呂も入る気になれなかった。全部電源切って寝た。全部切った。