朝靄がかかった佐倉の街並みが車窓に映し出された。大きな風車が見える街が緩やかに目を覚ましていく。去年の準備を思い出すような朝。この日はくさのねフェスの前日準備。去年と同じく黒金さんの車に乗って草ぶえの丘へ向かった。黒金さんとは久々にゆっくりと話した。話したかった全てを話すことは出来なかったが続きは次の機会に話せばよい。雲行きが心配になる朝だった。
そこからは前日準備を演者と協力して進める。去年やった経験や打ち合わせ内容を思い出しつつ指示出しをしたり、楽屋を養生したり、ステージの後ろに幕をつけたり、テントを張ったり…….。毎度思うが音楽フェスとは関係の無かった丘にステージが組み上がって、装飾が出来て、楽屋や物販席が出来ていくのを見ていると何事も大きなものは人の協力で出来ているのだ、と漠然と思う。それは美しくも感じるし、"自分達に出来ないものはない"といった類の全能感も覚えるし、僅かに畏怖の念に近いものも感じる。学生時代にスカイツリーの周りで配達のアルバイトをしていたとき、小さな路地裏でも微かに感じるスカイツリーの影にも同じことを思った。
一日の中で演者と沢山話した。前からの知り合い、久々に会える友達、この前対バンして仲良くなったバンドマン、初めて会った演者。準備だけではなく昼休みの時間や何気ない一瞬が連帯感を産んでいく。思わず出張の一時帰宅中であることを忘れかけた。こういう瞬間を共有できるとライブが変わる。去年、準備に関わった演者は全員良いライブをしていた。出演できない演者もその後のライブが変わった。くさのねフェスに出る出ないに関わらず、こういう時間を共有すると一年が変わっていくのだ。そして共有できる仲間が少しずつ増えているような気もしている。この街で音楽をやる意味を再確認した。
帰る時には結局夜も老けていたが、次の日が楽しみになる一日だった。そして……前日にビール沢山飲まない方が良かったな、と後悔する一日でもあった。