息を深く吸い込んだら鼻の奥が少しツンとする感覚があった。年々短くなっている気がする秋のせいで、折角ひっぱり出した春・秋物をまた引き出しの奥に仕舞い込んでしまった。こんな忙しない気候だといつか地球に住めなくなることが来るんじゃないか?と思い、行き先のない不安に襲われたりもするがきっとそんな日は来ない。来たとしても人間には知恵や技術があって、それらが新しい生活を提案してくれるのだろう。いつだって誰かにとっては希望、他の誰かにとっては絶望、もしかしたら無常と表現されて続いていく。
過ごしやすくなった夜の隙間を這うように散歩をする。コンビニに入って缶コーヒーにしようか?それとも紅茶にしようか?眠れなくなってしまうだろうか?そんなことを考えてコンビニ内をウロウロと。すぐにレジに向かいそうもない俺を見て品出しに戻る店員。こんな時間帯ばかりにコンビニに行くと段々と店員の顔も覚えてきてしまい、変な連帯感が生まれた気になる。顔見知りの店員とはよく言うけれど、もしかしたら俺たちはそんな間柄になっているか、兄ちゃん。声をかけるか迷う前にまず目の前にはどの飲み物を買うか、という重要な選択がある。少し寒いから暖かいものにしようか、でももう少し歩いたら体も温まって気がするなぁ。品出しをしつつ俺がレジに向かうタイミングを伺っている視線を感じている。耐えきれなくなってアサヒスーパードライを手にとってレジへ向かった。レジに立つ彼に何か声をかけたくなったけど、絞り出た言葉は「お疲れ様です」だった。
有線イヤホンを差し込んでビールを開けた。星がぼんやりと浮かぶ中で一人歩く。こんな夜には音楽がたくさん聴けて良い。どうしてもゆっくり聴けてなかった音楽やずっと好きな音楽も、これだけ静かだと耳を澄まして聴ける。普段の移動中に聴いているのでは見つからなかった発見がある。言葉がダイレクトに耳に飛び込んでくる気がする。一番のノイズキャンセリングはノイズそのものが無い時間や場所を選択することだ。
『手のひらが剥がれぬように振る』って良い歌詞だ。
誰かにとっては希望、他の誰かにとっては絶望、もしかしたら無常と表現されるそれを今も俺は続けている。
