2022/3/16② Sound Stream sakuraでライブ

午前中は仕事だった。勤務のほとんどを会議で過ごして気がつけば退勤時間。在宅勤務を終わりにする旨を書いたメールを課長に出した。最低限の荷物をまとめて家を出る。ギリギリだった。迷った挙句、自転車にエフェクターボードを載せた。直前のスタジオを遅くしてもよかったか、と入り時間とライブハウスまでの移動時間とスタジオの時間を脳内で計算する。今更考えても無駄なのだが。ギリギリでスタジオ到着。新曲や全体のセトリの流れを確認した。今日は演奏の直前にしか音出しの時間がなかったため、実質的にこれが最後のリハーサルだった。喉に負担をかけないようにしつつ全力で挑む。結果汗を軽くかいてしまいライブ後に着る服が何もないことに気がついた。結局マキタさんの車で一度俺の家に寄ってからサンストに向かった。

 

 

 

車はサンストに到着した。スタッフの方々や共演の方々に挨拶する。古木衆さんと会うのは久々だった。「バンド始めたんだ、良いじゃん。」と一言。相変わらず大人な人だ。着いて話しているうちにすぐに全体ミーティングだった。名前を呼ばれて「灯人です、よろしくお願いします」と頭を下げる。帽子はきちんと外した(はず)。ミーティングでも話になったが、このご時世の影響でライブハウスへの風当たりが強くなってしまっていて、少しの気遣いの足りなさやミスで批判を浴びてしまうくらい最近は緊張感が高まっている。改めて、ライブハウス内と近くでのマナーを注意しなければいけない。ちょっとしたことでつまらない事態にならないように。これは具体的な誰かが悪いとかそういうことではない。ただ全員で気をつけなければならない。それだけなのだ。

 

 

 

ライブがスタートした。弦の張り替えだったりもあったのでフロアと事務所を行き来しながらライブを鑑賞する。全演者が今日のライブに向けたマインドを各々の形で吐露していたのが印象的だった。自分達の前の演者の演奏を見て携帯にMCを書き留める。減り始めたアレの感染者数やクソみたいな国際情勢についての所見を直接的には言いたくなかった。しかし、今日のライブで何を喋るかを考えたがそれに対する思いをおりまぜずにはいられなかった。そして今日は弾き語りの演者に囲まれた一日。iphoneのメモ帳にMCを浮かんだ言葉を書いて読んで消してまた書いた。

 

 

 

そうこうしている内に出番前。サポートの二人の方がどっしりとしていた。対する俺は相変わらず俺は引き攣った顔をしていた。しかし前回の初ライブに比べればもう少しマシになったかもしれない。出来るだけシンプルな自分のライブのイメージを固める。始まる直前に携帯を見たら大学の後輩から長文のメッセージが。彼には昨日少しだけお邪魔した卒業ライブの感想を送っていた。その返信だった。彼なりに試行錯誤して書いた証があった。文章の中に「三橋さんが目標で一番かっこよかった」と書いてあった。身が引き締まった。背筋を伸ばした。なら、とことん高い目標で居続けないと駄目だよな。もうすぐ出番だった。

 

 

 

ライブはトラブルもあったが前回悔しかった部分は概ね改善できた。しかしながら反省もあるのでそれはライブ映像を見て確認することとする。お客さんがアルコールを一本入れてくれていた。嬉しかった。こういうことがさりげなく出来る大人は本当に尊敬してしまう。俺も今度そういう立ち回りをすると決めた。ライブが終わって精算をする。海野さんから的確な意見をもらえた。具体的なアドバイスだった。今まで自分では見えてなかった視点で自分のライブを見た気分。そのあとザキさんとも精算でした話の延長線にある話をした。バンドでの音作り、まだまだ見えていない。今後詰めていかなければならないところだ。打ち上げは無かったので、挨拶をして帰宅。電車に乗った。

 

 

 

最寄駅に着く瞬間。車両内の乗客の携帯が一斉に鳴り出した。大きい音だった。その音が緊急地震速報であると気がつくまで少し間があった。最寄駅に降りる。改札を降りてしばらく経っても電車は止まったままだった。自転車は別の駅に置いてあったので最寄りから30分ほど歩いた。駐輪場に着く直前。やたらと街が暗いことに気がついた。街灯が消えていた。慌てて大通りに出る。自分今まで歩いてきた方面の街灯が点いていて、今から向かう方面が街灯がついていなかった。いや、街灯だけではなく、信号機すら消えていた。断水と停電が起きていると情報が俺の携帯に入った。その時やっと地震が2回起きたこととその地震が大きかったことを知った。スマホの頼りないライト片手にコンビニで群がる人の群れを見た。店員が「すみません、レジも使えないんです」と頭を下げた。真っ暗な街。非常灯だけが点く街を自転車で走る。夜がこんなに暗いとは思わなかった。揺れる自転車の前かごがエフェクターボードと当たってカタカタと不規則に音を鳴らした。人々の不安が次々と伝播していった11年前の3月11日を思い出した。