2023/8/29 旗を振る

いつかのあの子を何度も思い出す。ハッピーエンドの映画を観たとき、料理が美味しい居酒屋を見つけたとき、仕事でムカつくことがあったとき、良いライブが出来たとき、そして良いライブが出来なかったとき。彼女ならなんて言うだろうか?夜中目を覚ましてシャワーを浴びた後、鏡の前で思う。彼女ならなんて言うだろうか?この不摂生な男は今の彼女にどう映るのだろうか?ため息と共に電気を消す。AM4:05。気がつけばもう朝が近づいている。「こんなはずじゃなかった」夜も必ず朝に変わる。もう行かなくちゃいけないのだな、と天井を睨む俺に陽は容赦なく差し込む。

 


自主企画echoを終えてからもう4ヶ月が経とうとしている。沢山の再会と待ち望んだ景色は灯人を間違いなく新しいステージまで運んでくれた。遠くから来てくれた友達、全然連絡できていなかったのにチェックしてくれていた後輩、いつもデカい背中を見せてくれる先輩、その他にも沢山の人々に囲まれて間違いない一日を作った。これは灯人の大きな自信に繋がり、そしてその自信は紛れもなく俺たちの周りにいる人達がくれたものだった。返すべき思いを沢山もらった。今後も出来るだけ大切に返していくのみだ。改めて、

 

Sound Stream sakura

unskilled

カタルカルタ

アルライト

月がさ

お客さん

会場に来れずとも応援してくれた沢山の人々

 

に感謝です。
本当にありがとうございました。遅くなってしまい申し訳ないです。

あの日打ち上げ終わりに船橋で機材を預けた帰り。1人船橋駅のホームに立った瞬間に大きな疲労感に襲われた。胃の奥に残ったアルコールの重みも相まってすごく眠かった。しかし、その微睡の中で2023年5月4日に一つの旗を立てた確信を噛み締めた。次はより大きな旗を立てねばいけない、と身体に鞭を打ち帰路に就いた。

 


そこから同じような夜を何度か超えた。5月4日に取り除いたはずの悪い種は生活の中でまた芽を出した。手帳はスケジュールと駄文ですぐに埋まった。手帳の端に彼女の名前を書いては消してまた書いた。彼女の名前の周りを思い返せば恥ずかしくなるような文章で埋めた。歌詞にも日記にも恋文にもならないその文章を書いている時間が一番穏やかで優しい気持ちになった。

 

 

ペン先をすり減らすのと同じように日々心は擦り切れて、擦り傷から悪い種が続々と芽を出した。繰り返しの行く先は駅前の居酒屋とバーのカウンターだった。中ジョッキを片手にぼんやりと口を開ける平日。小一時間は虚空を眺めていないと家に入れなくなっていた。【振り返っても戻れないサンデイ】と歌詞を書いた自分を呪った。自分の中にある緩やかな毒はひどく生活を蝕んでいた。そして、いつかの仕事中。自分の中で何かが崩れる音がして、目の前が暗転するかのような錯覚がした。「あ、ヤバい」と思わず呟いた。漠然と"限界"の二文字が頭に浮かぶ。正に"限界"だった。

 

 

初めての心療内科では何個かの病名を告げられた。病名を聞いても"そうだろうな"以外の感想は無かった。『生きてて辛くないですか?』と聞かれたが「生きることは辛いことだと思ってます」と答える始末だった。処方された錠剤は効いているのかわからなかった。そういえば同じ病気を抱えていた彼女も『薬が効かない』とよくぼやいていた。奇しくも同じ病気を貰ってしまったなぁと苦笑し手帳を開く。手帳の端に書いた彼女の名前はインクが落ちてもう読めなくなっていた。確実に時は進んでいる。

 

 

灯人で月に2~3本のペースでライブをやる傍ら、ライブを何度か見に行った。見に行ったライブはざわついた心を宥めるようなライブばかりだった!特に秩父までドラゴンさんと行ったLOSTAGEのツアー初日、音とビールに酔いしれたCRAFTROCK FESTIVAL、黒金さんとおーしゃんさんと行ったSATANICの3つは本当に格別だった。これらについては書く機会があったらまた詳しく書くが、尊敬するバンドの面々が立てた旗は目の前で力強く靡いていた。今後の灯人がどんな風に戦っていくのか、また秋葉原の小さなスタジオと日々のライブハウスから想像していくきっかけになった。

 

 

いつかのあの子を何度も思い出す。街ですれ違い様に香った香水の匂いに、わざわざ振り返ることも無い。振り返った先に彼女がいないこと、思い出す色香は過去のものであること、そして、どこかの彼女にも見えるくらい大きな旗を立てなくてはいけないことにはもう気がついていた。息を吸って吐く現在地は秋葉原。今夜も灯人のスタジオへ。